「私は、呼吸生理学者として長年呼吸の研究を行って来ました。
呼吸と心の関係を見出してからは、(呼吸の美しさを表現したい!)と思うようになり、
呼吸と情動のつながりを芸術美として魅せるために、
新作能「オンディーヌ」を創作しました。」・・本間生夫
泉の世界の妖精オンディーヌは、人間の世界の男に恋をし、
泉の世界の王の忠告も聞かず、その男ハンスと結ばれる。
王は、もしその男がオンディーヌを裏切ると死ぬ、
という呪いをかけた。二人はしばらく、愛し合って暮らすが、
あるときハンスはオンディーヌを裏切り、ハンスは呪いによって死んでしまう。
物語は、ここから始まる。時が過ぎ、人間の世界に降りたオンディーヌは老女となり、
森の中、泉のほとりの苫屋でひとり、ハンスを思い続けていた。
オンディーヌは純粋なただひとつの魂(息)をもつ、心優しい妖精である。
オンディーヌを心配する泉の王は、
オンディーヌのためにハンスをこの世に甦らせる。
ただし、再びオンディーヌを裏切ると、ハンスの息は止まり、
オンディーヌからハンスの記憶がすべて失われるという呪いをかけて・・・。
オンディーヌの物語の中でオンディーヌを裏切ったハンスは泉のおきてにより
息ができなくなり死ぬ。呼吸の疾患の中に睡眠時無呼吸症候群があります。
眠っているときにしばらく呼吸が止まる疾患です。
物語にあるようにそのまま死んでしまうということはまずないのですが、
昼間起きている時に傾眠傾向が強く、モータリゼーションが盛んな米国で
交通事故の原因として問題になりました。
日本では山陽新幹線の運転手が運転中に居眠りしたことで有名になった疾患です。
米国のある呼吸生理学者が睡眠時無呼吸症候群を「オンディーヌの呪い」と呼びました。
決してオンディーヌが呪いをかけたわけではなく、逆にハンスをかばうのですが、
睡眠時無呼吸症候群を“Ondine Curse”「オンディーヌの呪い」と
我々も呼ぶようになっています。
最近ではこれが高血圧や糖尿病の悪化原因として注目されるようになっています。
疫学調査で成人男性の5人に1人は「オンディーヌの呪い」にかかっているようですよ。